グランバットマンで上げた脚が、途中で保たずにストンと落ちる。アダジオの後半になると、軸足のほうがふらふらしてくる。レッスンのあとには、たいていその場面だけが残ります。
バレエのために腹筋でもしたほうがいいのか。それとも筋トレは後回しでいいのか。
バレエに筋トレが必須とは限りませんが、レッスンだけでは足りない筋力を補う方法の一つになります。ただし、筋力をつけるだけで踊りが変わるとは限りません。フォームや力の使い方もあわせて確認することが大切です。
筋トレって、やっぱりやったほうがいいの?
筋トレを取り入れるかどうかは、レッスン回数だけでなく、踊っている途中でどこが疲れるか、どの動きを保ちにくいかによって変わります。週に何度も通っていても筋力を補う練習が役立つ場合があり、週1〜2回でもレッスン内容によっては十分に体を使えます。
分かれ目は、スタジオにいない日をどう過ごしているかです。
週に何回、レッスンに行けていますか
何度も通える環境なら、レッスンそのものでも全身を使います。そのうえで、特定の動きを保ちにくい場合は、必要な部分を補う筋トレを取り入れる方法があります。
レッスンのない日に短時間でも体を動かしておくと、次のレッスンで動きを確認しやすくなることがあります。
「バレエに筋トレは意味がない」と言い切る人もいます。毎日のようにスタジオに立てる人には、そのとおりの面もあります。ただ、通える回数が限られている大人にそのまま当てはまるとは限りません。
じゃあ何を、どれくらい鍛えればいいの?
ジムに行かなくても、家でできますか
特別な器具は必要ありません。自分の体重を使うだけで、当面は足りる範囲です。マットが一枚あれば、床の上でできることがほとんどです。
器具を揃える前に、まずは自重でどこまで感覚が変わるかを試してみる。そのくらいの気軽さで始めて構いません。
どこを鍛えるといいの?
意識したいのは、お腹まわり、背中、お尻と脚の付け根、そして足首と足裏です。立つ・跳ぶ・回るという動きを支える、土台に近い場所です。
次の種目は、自宅で取り入れやすい基本的な例です。回数をこなすことより、呼吸を止めず、姿勢を崩さずに動ける範囲で行ってください。
お腹まわりはプランクを20〜30秒、2セットから。腰を反らしたり肩をすくめたりせず、呼吸を続けられる姿勢を保ちます。体幹を支えながら手足を動かす練習の土台になります。
お尻と脚の付け根にはヒップリフトを10回、2セット。仰向けで膝を立てて、お尻を持ち上げて下ろします。お尻や股関節まわりを使いながら骨盤を支える感覚を確かめます。
背中なら、うつ伏せで両腕と両脚を軽く浮かせて、数秒そのまま止まる動き。5秒を5回を目安にします。腰だけを強く反らさず、上半身を支える感覚を確かめてください。
足首と足裏は、立ったままかかとを上げて下ろすカーフレイズ、つまりルルベの上げ下げを10〜15回、2セット。上がる高さだけでなく、かかとをゆっくり下ろせるかも確認してください。
デヴェロッペで脚を保ちにくいときは、腹筋だけでなく、股関節まわりの筋力や立っている側の安定も関係します。一つの種目だけで解決しようとせず、レッスンでどこに負担を感じるかを確認してみてください。
どこか一か所だけを集中的に鍛えるより、この範囲をまんべんなく触れておくくらいの感覚のほうが、レッスンでの動きにはつながりやすくなります。
どれくらいやれば足りるの?
まずは週1〜2回、1回10分ほどから始めると、レッスンとの両立がしやすくなります。疲れが残る場合は回数や種目を減らし、慣れてから調整してください。
レッスンの疲れが強く残っている日に、筋トレを詰め込む必要はありません。レッスンのない日に分散させるくらいのペースで進めてください。
ストレッチとの配分に迷うなら、筋トレは疲れが残らない範囲で週1〜2回から始め、ストレッチは体が温まったあとに行う、と役割で分けると整理しやすくなります。
鍛えているのに、レッスンでの動きが変わらないとき
筋トレを続けているのに、先生から言われることが変わらない。そんな時期があります。
筋トレを続けてもレッスン中の動きに変化を感じられないときは、量を増やす前に、種目やフォームが目的に合っているかを見直してみてください。筋力がついても、それがレッスン中の動きにそのまま表れるとは限りません。
強いのと、使えるのは別です
お腹まわりのインナーマッスル(体の奥のほうにある筋肉)が強くなっても、立っているときに肩や首に力が入ったままだったり、動き出す瞬間にぎゅっと力んだりすると、その強さは出しきれません。
足りないのは力の量ではなく、力を出すタイミングのほうかもしれません。
使い方の側だと感じるなら、最初に見たいのは立ち方と動き出しです。何もしていないときに肩が上がっていないか、プリエから動き出す瞬間に息を止めていないか。ここがゆるんでいるかどうかで、同じ筋力でも出方が変わります。
筋トレの量を増やしても変わらず、いったん量を減らして立ち方から見直したほうが動きやすかった、という方がいます。
体幹そのものの使い方については体幹は鍛えるより使う、という話で詳しく書いています。
足りないのは筋力?それとも使い方?
どちら寄りなのかは、レッスン中の感覚である程度見分けられます。
途中で姿勢を保てなくなるときに確認したいこと
アダジオの途中で脚が保たなくなる、支えきれずにストンと落ちる、最後まで形を保てずに崩れる。こうした場合は、筋力が関係していることがあります。ただし、立ち方や呼吸、脚を上げる方向によっても負担は変わるため、筋力不足だけで決めつけないようにします。
力むほど動きにくいときは、力の入れ方を確認する
力は入れているつもりなのに軸がぶれる。力めば力むほど体が固まって動けなくなる。左右どちらか片側だけ極端にやりづらい。こうした状態は、力の量だけでは説明できません。
どちらか片方だけということは少なく、両方が絡み合っていることも珍しくありません。それでも自分がどちら寄りかを知っておくと、自宅の10〜15分をストレッチに使うのか、筋トレに使うのか、体の使い方を見直すことに使うのかを決められます。先に決めたいのは、量よりも順番です。
この順番の考え方は、大人から上達していく人の共通点にも通じます。
ポジションもターンアウトもピルエットも、根っこは同じところにつながっています。全体像はバレエの基本と軸のつながりにまとめています。
筋トレをすると、脚や腕が太くなりませんか
これは、筋トレを始める前によく気になる不安のひとつです。
自重トレーニングで急に体型が変わる可能性は高くない
筋肉の見え方は、運動量や負荷、食事、もともとの体格などによって変わります。短時間の自重トレーニングを週に数回加えただけで、急に脚や腕が太くなる可能性は高くありません。
筋トレ直後の張りも確認する
筋トレの直後は、使った部分に張りを感じることがあります。見た目だけで判断せず、疲れが残っていないか、レッスンで動きにくくなっていないかを確認しましょう。
筋トレそのものを怖がる必要はありません。量と休め方を見ながら調整していくくらいの気持ちで足ります。
よくある質問
レッスンの前に筋トレをしてもいいですか
レッスン前は、軽く体を動かすウォーミングアップ程度にします。筋肉が疲れるほどの筋トレをすると、その後のレッスンで姿勢を保ちにくくなるため、まとまった筋トレは別の日に行うほうが取り入れやすいです。
筋トレとストレッチは、どちらを先にやるといいですか
決まった順番があるわけではありません。体が冷えたまま強く伸ばすより、軽く動かしてから伸ばすほうが伸ばしやすくなります。その日の体の状態に合わせて配分を変えて構いません。
腹筋だけやっていれば足りますか
お腹まわりは大事な場所ですが、そこだけでは足りないことが多いです。脚を上げ続けるにはお尻と脚の付け根が、上体を保つには背中が関わります。プランクに、ヒップリフトとルルベの上げ下げを足すくらいで、ぐっとバランスがよくなります。
大人から始めても、筋トレの効果はありますか
年齢を理由に諦める必要はありません。体を動かす習慣そのものは、年齢に関わらず体の状態に働きかけます。感じ方には個人差がありますが、始めるタイミングを気にしすぎるより、無理のない範囲で続けてみるほうが意味を持ちます。
言葉より、体で確かめたいなら
筋トレをするかどうかより先に、今の自分の体がどんな癖を持っているかがわかると、限られた時間の使い道がはっきりしてきます。
立っているときに肩が上がっていないか、動き出しで力んでいないか。自分では見えにくい場所なので、外から見てもらうほうが早いです。
ここで案内しているのは、バレエのレッスンや筋トレ指導ではありません。イスから立ち上がる動作などを通して、立ち方や動き出しのときにどこへ力が入っているかを確かめる体験です。
